泳動結果
大腸菌のClpXをHis-tag融合タンパク質として大腸菌で発現させ
精製したものです。
通常のSDS-PAGEをしたものが(A)です。
Mn2+–Phos-tag SDS-PAGEををしたものが(B)です。
WT(左レーン)と,N末61アミノ酸を欠失したもの(右レーン)です。
WTは,通常のSDS-PAGEで,2本見えています。
Mn2+–Phos-tag SDS-PAGEでは,大きくシフトアップしたバンドを含め
複数バンドが観察され,リン酸化種が分離されたかのように見られます。
しかし,このタンパク質はリン酸化していません。
複数バンドに見えるのは,SDS変性条件下であっても,
高次構造があるためだと考えられます。
一般に,タンパク質はSDS変性で,直鎖状の一本になると言われていますが,
実際は高次構造が残っています。
リン酸化タンパク質の移動度がSDS-PAGE でわずかに異なることがあるのも
その一例です。
Phos-tagは,リン酸基にかかわらず,タンパク質と固有の親和性があり,
非リン酸化タンパク質でも分子量を反映した移動度にはなりません。
タンパク質の高次構造に特異的な親和性があり,
高次構造の差異を分離したものと考えられます。
また,このClpXの複雑なバンドパターンは,
N末の47-61のアミノ酸領域が原因であることを明らかにしています。
配列は(C)に示しています。
この領域が,SDS変性下での複数の高次構造の生成に関わっています。
当初,47-61の各アミノ酸に含まれる官能基が
Phos-tagと相互作用をする可能性も考え
各アミノ酸をアラニンに置換したmutantを作成して
移動度を比較したものが次の図です。
通常のSDS-PAGE (A) では,各mutantに移動度の差はあまり見られませんが,
Mn2+–またはZn2+–Phos-tag SDS-PAGEPでは,複数バンドが見られ,
移動度も規則性がありません。
これは,各mutant が複数の高次構造を含んでいるためで,
Phos-tagがそれらの差異を分離しているからと考えられます。
私たちは,Clp以外にこのような例をまだ報告していませんが,
リン酸化していないにもかかわらず複数バンドが見られる場合,
同様の原因が考えられます。