泳動結果
バクテリアの情報伝達経路には,ヒスチジンとアスパラギン酸による
リン酸基転位反応によって行われるものがあり,
二成分伝達系と言われます。
外界の環境変化を捉えるセンサーキナーゼ(ヒスチジンキナーゼ)と
レスポンスレギュレータのペアから成ります。
センサーキナーゼのヒスチジンが自己リン酸化によってリン酸化し,
そのリン酸基がレスポンスレギュレータのアスパラギン酸に転移されます。
レスポンスレギュレータ〜は転写因子として支配下の遺伝子発現に関わります。
本実験は,E.coli の 二成分伝達系BarA/UvrY
のin vitro kinase assayです。
His-tagタンパク質として発現,精製したものです。
BarA, UvrYのリン酸基転移が分子間転移か,分子内転移かを決定した実験です。
BarAは, HKドメイン,レシーバードメイン,HPtドメインの3つのドメインからなり
HKドメインのH302
レシーバードメインのD718
HPtドメインのH861
へと,3段階のリン酸基転移リレーを行う「ハイブリッドヒスチジンキナーゼ」です。
HPtドメインから,レスポンスレギュレータのUvrY D54 にリン酸基転移します。
二量体を形成しており,その転移反応は分子間あるいは分子内で起こると考えられます。
「BarA seif-phosphorylation」 はBarAがATP存在下で自己リン酸化する様子を
Mn2+–Phos-tag SDS-PAGEで解析したものです。
BarAはG2 box (G481, G483)がATP 結合部位
です。
そこからH302にリン酸基を転移します。
Wt-BarAでは,2種類のリン酸化バンド(H302~P, D718~P)がみられます。
H302~P はシフトアップ度が小さいです。
G2 boxをアラニンに置換したG2* ,リン酸化部位をアラニンに置換したH302Aでは
リン酸化が見られません。
また,G2*とH302A を当量混合した場合はリン酸化が見られます。
このことから,BarA のH302リン酸化反応は(b)-(i)に示したように,
分子間転移であるとわかりました。
「BarA/UvrY phosphorelay」 はBarAがATP存在下で自己リン酸化し,
そのリン酸基がUvrY に転移する様子を解析しています。
WT-BarAとUvrY の組み合わせにおいて,
BarAがリン酸化したものがシフトアップしていることから
リン酸基転移反応が起こったことが確認できました。
BarA の3箇所のリン酸化部位をアラニン置換し,
できた3種類のmutantを組み合わせて3種類のペアを作り
それぞれ当量混合した時にリン酸化反応が起こるかどうか
(それぞれのmutant 単独では起こらない反応が相補されるかどうか)
を確かめたところ,(b)-(ii)(iiii)(iv)のように転移の機構がわかり,
結局,(c) の図のように,3段階の転移は,
trans-trans-transであることがわかりました。
ヒスチジンやアスパラギン酸のリン酸基は,化学的に不安定で,
特に酸性条件下で容易に加水分解されます。
アスパラギン酸のリン酸基はアルカリ性条件下でも容易に加水分解されます。
中性条件下でも,両者の半減期は,Ser/Thr/Tyrリン酸基よりもはるかに短いです。
そのため,解析方法が少なく,二成分伝達系の研究例は多くありません。
Phos-tag SDS-PAGEは,このような不安定なリン酸基の解析にも適しています。
関連画像
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